
肌にふれることは、子どもを想うこと。
小児皮膚科医が伝え続ける、
毎日のスキンケアが大切な理由
神奈川県立こども医療センターで、30年以上にわたり子どもたちの肌を診てこられた小児皮膚科医・馬場直子先生。
診療を続ける中で感じてきたのは、子どもの肌を守ることは、その子を想う家族の心に寄り添うことでもある、ということでした。
ナチュラルサイエンスの会報誌「ナチュラルメッセ」やブランドサイトの記事監修にも携わっていただいている馬場先生に、毎日のスキンケアを大切にしてほしい理由をうかがいました。
子どもの肌と、家族の心に寄り添いたい
小児皮膚科医としてのスタート

私が神奈川県立こども医療センターの皮膚科医長として赴任したのは1994年のことでした。それまでは10年ほど、大学病院で主に大人の皮膚の悪性腫瘍などを専門にしていましたから、小児皮膚科医としては、ほとんどゼロからのスタートでした。
小児皮膚科がそれまでの診療と大きく違ったのは、患者さん本人ではなく、親御さんとのやりとりがとても大切になること。赤ちゃんや小さな子どもは、自分で症状を伝えることができないからです。
しかも当時、病院内の皮膚科医は私一人だけ。手探りではありましたが、2人の幼い息子たちの子育て経験にも助けられました。そして、診察室に来られるお子さんや親御さんから、小児皮膚科医として育てていただいたと思っています。
神奈川県立こども医療センターには、皮膚疾患のある子だけでなく、脳や神経、内臓など、全身の重い病気とともに生きる子もたくさんいます。
赴任した当初、重い病気のある子の親御さんが、お子さんの軽い皮膚トラブルでも熱心に受診されることを、初めは少し不思議に感じていました。すぐに治りそうな赤みや小さな傷でも、心配して診察室にいらっしゃるのです。
でも診療を続けるうちに気づきました。そこには、「わが子にできることは、なんでもしてあげたい」という親御さんの深い愛情があるのだと。
脳や内臓の重い病気は目には見えませんし、治療は専門医に任せるしかありません。だからこそ、自分の目で見ることのできる皮膚の赤みや傷は、少しでも早く気づき治してあげたい。そんな思いで、親御さんたちは受診されていたのでしょう。
医師として、子どもを思う親御さんの気持ちにも応えたい。お子さんの皮膚トラブルを診るだけでなく、ご家族の心にも寄り添いたい。そんな思いで、30年以上、小児皮膚科の診療を続けて参りました。
皮膚は、からだ全体を守る
大切な臓器

重いアトピー性皮膚炎のお子さんの場合、皮膚の症状が日々の生活や発育に影響することもあります。
かゆみがひどくて夜に十分眠れない状態が続いたり、イライラして遊びや勉強に集中できなくなったりすることもあります。
そういう場合は、まず薬で赤みやかゆみなどの炎症をしっかり抑えることが大切です。症状が改善したら、肌を清潔にして保湿し、皮膚のバリア機能を整えていく。さらに、肌への刺激をできるだけ減らすため、衣服や住環境などにも配慮していきます。
そうしてお子さんの肌がよくなっていくと、親御さんの表情も変わってくるのです。
初めて診察室にいらしたときには、心配のあまり厳しい表情をされていた方が、お子さんの肌が改善するにつれて、だんだん笑顔になっていく。その姿を見るのは、医師として本当にうれしいことです。
一方で、アトピー性皮膚炎には体質的な素因もあります。きちんとケアしていても、またかゆみが出てしまうこともあります。
何度も診察に通ったり、毎日ケアを続けたりするのは大変なことかもしれません。「いつ治るんだろう」「いつ薬や保湿をやめられるんだろう」と思うこともあるでしょう。
それでも、お子さんが成長し、いつか自分自身で肌を大切にできるようになるためにも、毎日のスキンケアを続けながら、いかに親御さんがお子さんの肌を大切にしているかを見せ続けていってほしいと思っています。
皮膚は、人体の内側と外側の境目であり、からだ全体を覆って守っている、人体最大の臓器だと言われます。唯一、自分の目で見ることができ、直接触れることができ、感じることができる。そして、生涯付き合っていくものです。だからこそ、小さいころから大切にケアして、すこやかな肌を育んでほしいですね。
生まれてすぐからの
保湿が大切だとわかってきた

最近では、アトピー性皮膚炎の予防や、経皮感作による食物アレルギーの予防という意味でも、「生まれてすぐからのスキンケア」の大切さが広く知られるようになりました。
でも、私自身が3人の子どもを育てていたころは、生まれてすぐからスキンケアをすることが、今ほど重要だとは考えられていませんでした。
皮膚のバリア機能を守ることが重要視されるようになったのは、2008年にイギリスの小児科医G・ラック(Gideon Lack)教授が「二重抗原暴露仮説」を提唱したことにはじまります。
乾燥し赤くなった皮膚からアレルゲンが入り込む「経皮感作」などについても明らかになり、皮膚のバリア機能を守ることが、アトピー性皮膚炎だけでなく、食物アレルギーとの関係においても重要だと考えられるようになったのです。
私自身、診察室で患者さんたちと接していても、30年前とは大きく変わったと感じます。赤ちゃんのころからきちんと保湿をするという意識は、ずいぶん高まりました。
ナチュラルサイエンスが創業したのは1996年ですから、まだ今ほど乳幼児期のスキンケアが一般的ではなかったころから、その大切さに着目してきたことになりますね。
小松社長が、息子さんのアトピー性皮膚炎をきっかけに、子どもの肌のために何ができるのかを考えたことが出発点だったと伺っています。
「子どもたちの肌を、なんとかしてあげたい」その思いは、私が診察室で出会ってきた多くの親御さんの思いとも重なります。

肌と肌がふれあうスキンケアは
親子のきずなを深め、心を安定させる

スキンケアには、肌を清潔にして保湿することとは別に、もうひとつ大切なことがあると私は思っています。
それは、親子が直接ふれあう時間になることです。
「手をかける」「手あて」という言葉があるように、人は昔から、手で直接肌に触れることを大切にしてきました。
おふろでやさしくからだを洗う。おふろから上がったら、肌の様子を見ながら保湿剤を塗る。
毎日のスキンケアは、自然に親子がふれあえる時間でもあります。
肌にやさしく触れてもらうことは、子どもの安心感にもつながります。何より、「大切にされている」ということを、親の手から伝えられる時間なのではないでしょうか。
私の孫たちも、生まれてすぐから「ママ&キッズ」のスキンケア製品を使っています。長男にアトピー性皮膚炎があったこともあり、孫たちも毎日の保湿を大切にしているようです。
朝やおふろ上がりのスキンケアは、歯磨きと同じように、孫たちにとって当たり前の習慣になっています。4歳の孫は、お母さんにクリームを塗ってあげることもあるんですよ。
そんな姿を見ていると、スキンケアは肌を守るためだけのものではないのだと、あらためて感じます。

正しい知識を
必要な親子へ届けたい

今はSNSなどを通して、さまざまな情報が発信される時代です。一方で、偏った情報を信じて診察にいらっしゃる患者さんもいます。
医師として正しい情報を届けたいと思っていますが、限られた診療時間のなかで、一人ひとりにすべてをお伝えすることはなかなかできません。
だからこそ、専門家が監修した信頼できる情報を、広く届けていくことには大きな意味があると思っています。
私もナチュラルサイエンスの会報誌「ナチュラルメッセ」で、スキンケアや皮膚トラブルに関する記事の監修に携わってきました。毎日の基本的なスキンケアの大切さを丁寧に伝え続けることで、一人でも多くの方に正しい知識を届けられたらと思っています。
また、CHAMA(一般社団法人 日本チャイルドアンドマザーケア協会)では、アドバイザーとして、看護師や助産師などの看護職者に、親子のセルフケアに関する専門知識を伝えるお手伝いもしています。
看護職者は、お母さんたちにとって、気軽に質問や相談ができる身近な専門家です。正しい知識を持った「母子スキンケア指導士」が増えていくことは、親子の健康を守ることにもつながります。
誰に相談するかによって、受け取る情報が大きく違ってしまっては、親御さんも迷ってしまいます。
必要な人に、正しい知識をきちんと届ける。
それも、長く子どもたちの肌に関わってきた私ができることのひとつだと思っています。
親から子へ
「毎日の積み重ね」をつないでいく

どんな肌トラブルにも、一瞬で解決する魔法の方法はありません。
やさしく洗うこと。
きちんと保湿すること。
そんな毎日の積み重ねが、何より大切です。
日々の子育ては本当に大変ですし、いつも時間に追われてしまいますよね。でも、かわいらしい子どもの肌に、こんなふうに触れられる期間は、振り返ってみると意外と短いものです。
これは、私自身の子育てを振り返って感じることでもあります。
私も3人目の子どもを妊娠中に、神奈川県立こども医療センターの皮膚科医長を任され、当時は本当に忙しい日々でした。でも振り返ると、小さな子どもたちを育てていたあのころは、とても幸せな時間でした。渦中にいると、なかなか気づけないものですけれど…。
だから今、子育てをしている親御さんには、毎日のスキンケアを、お子さんとのふれあいの時間としても大切にしてほしいと思います。
自分の手でやさしく洗い、自分の手で保湿し、たくさん抱きしめてあげてください。
肌にふれることは、子どもを想うこと。
その毎日の積み重ねが、今のお子さんの肌を守り、思いやりの心を育て、やがて自分で自分の肌を大切にする習慣にもつながっていくのだと思います。
親から子へ、そして孫へ。
子どもたちがすこやかな肌で、家族とともに安心して笑顔で毎日を過ごせるように。これからも、親子の肌と心に寄り添いながら、毎日のスキンケアの大切さを伝え続けていきたいと思っています。

小児皮膚科医
馬場 直子 先生
滋賀医科大学卒業後、横浜市立大学皮膚科講師を経て、1994年神奈川県立こども医療センター皮膚科医長、2002年より皮膚科部長(2024年より非常勤)。現在は皮膚科クリニックでも子どもから大人まで幅広く診療する。日本皮膚科学会、日本小児皮膚科学会、日本臨床皮膚科学会会員。血管腫、母斑をはじめとする先天性皮膚疾患およびアトピー性皮膚炎を専門とする。








