
目を見て、話して、触れる。
スキンケアからはじまる
「自分を大切にする心」の育て方
保育の現場にスキンケアを取り入れるきっかけとなったのは、今から17年前。アトピーに悩む、ひとりの赤ちゃんとの出会いでした。
きららっこ石神井公園保育園(東京都練馬区)では、ナチュラルサイエンスとともに「基肌育(きはだいく)」に基づいたケアを実践し、子どもたちの肌を対象に毎月の調査研究を重ねています。そこで得られた知見は、製品開発にも活かされています。
忙しい日々の中でも、子どもたちの肌に触れる時間を大切にしてきた理由とは。その想いと実践について、冨樫元園長にお話をうかがいました。
50歳からの挑戦。それは
「保育ママ」の志からはじまった

私が「きららっこ石神井公園保育園」を立ち上げたのは、50歳のときでした。若い頃に都内の保育園で働いた経験はあったものの、退職後は父の会社を手伝いながら、4人の子どもを育ててきました。気がつけば子どもたちは成長して、独り立ち。
「これからの人生で、自分にできることは何だろう」
そう考えたとき、自然と頭に浮かんだのが、「保育」でした。もともと子育ても保育の仕事も大好きですし、「若いお父さんやお母さんの子育てを、ほんの少しでもお手伝いできたら——そんなことができたら、残りの人生もきっと楽しいんじゃないかな」と考えたのです。
といっても、最初から大きなことをしようと思っていたわけではありません。3、4人のお子さんのお世話をする“保育ママ”のようなことができたらいいなと思い、まずは区役所へ相談に行きました。
しかしそこで、運命的な巡り合わせがありました。当時、東京都は「認証保育所」という新しい制度をスタートさせたばかりだったのです。
「それなら仲間を集めて、もう少し多くの子どもたちをお預かりする方がいいかもしれない」そう思い、園を立ち上げることを決めました。
正直なところ、はじめは不安もありました。もともと大きなことをするつもりはありませんでしたし、保育のお仕事には 25年のブランクもあります。「ちゃんと運営していけるのかしら」という心配もありました。
それでもご縁に恵まれ、駅前の新築ビルに空きが見つかったこともあり、2004年、30名定員の保育園を開園することができました。
「ここにいていい」という確信。
居場所が育む自己肯定感

保育士として、私が最も大切にしていることは、子どもにとっての「居場所」づくりです。
子どもは一人ひとり、いろいろな思いを抱えています。楽しい気持ちもあれば、悲しい、寂しいといった気持ちもあるでしょう。まだ幼いため、気持ちを上手に表現できず、モヤモヤすることもあります。
どんな気持ちを抱えていても、1日の中で長い時間を過ごす園では、信頼できる大人と一緒に、安心して毎日を重ねてほしい。いつも、そんな思いを大切にしています。
居場所といっても、特別なものではありません。自分の席がいつでも用意されていること。自分の荷物を置く場所がきちんとあること。お昼寝をする場所が、毎日同じであること。
ご家庭でいえば、食卓で「ここがお父さんの席」「ここがお母さんの席」「ここが私の席」と決まっているような感覚です。

同じように保育園でも、ごはんを食べ、おなかが満たされ、ぐっすり眠ってまた目が覚める。 そんな当たり前の毎日を重ねる中で、「あぁ、私はここにいていいんだ」と、心から感じられることが何より大切。
その安心感がやがて、「自分を肯定してもらえている」という感覚につながっていくのだと思います。
「赤ちゃんの肌にスキンケアは
いらない」という誤解

保育の現場では、子どもたちの健康管理も大切な仕事です。当時の私は「赤ちゃんの肌はプルプルしていて、なるべくいじらないほうがいいもの」という一般的な常識をそのまま信じていました。でも、その考えを根底から覆す出来事が起こります。
開園して間もなくお預かりした、生後3か月の赤ちゃん。その子は全身が真っ赤に腫れ上がる、重度のアトピーでした。
かゆくてぐずり、夜も眠れない日々。お母さまも「どうしてあげればいいのか」と、出口の見えないトンネルの中で疲れ果てていらっしゃいました。
そんなとき、ふとしたきっかけでナチュラルサイエンスの小松令以子社長と出会いました。そこで令以子さんから、「基肌育(きはだいく)」という考え方を教えていただいたのです。「基肌育」とは、スキンケアで保湿をしながら、トラブルの起きにくい健康な肌を育てていくというもの。
特にアトピーの子どもには保湿が大事で、「アレルギーは、肌の隙間から異物が入ることで起こる。だから、水分や油分などの保湿成分を補って、肌の状態を整えることが、予防や治療の一助になる」というお話でした。
これを聞いたとき、「クリームが、アトピーになりにくい肌づくりに役立つなんて本当かな?」と、半信半疑でした。それでも、薬と併用しながら保湿を続けていくうちに、肌が少しずつ落ち着いていく様子を目の当たりにし、考えが変わっていったのです。
「乾燥が、これほど肌に悪影響を及ぼすなんて…」
私だけでなく、保育園の職員たちも同じように驚き、実感していきました。
「手がかかる」を、愛情へ。
保育現場での試行錯誤

しかし、いざ保育園でスキンケアを導入しようとすると、現場からは戸惑いの声も上がりました。
保育士の仕事は、あっという間に時間が過ぎていくような慌ただしさです。外遊びのあとや、ご飯やおやつの前後などに、「全員に保湿クリームを塗る」という作業が増えるのは、やはり大きな負担に感じられました。加えて、イヤイヤ期の子どもたちが、素直にクリームを塗らせてくれないという難しさもあります。
しかし私たちは、「子どもの肌には保湿が大事」と実感していましたから、どうしたら保育士にも子どもにも負荷をかけず、スキンケアができるか、と工夫を重ねました。
そのひとつが、おむつ替えのタイミングを「スキンケアの時間」と定めたことです。まずは丁寧に汚れを落としたあと、保湿を徹底しました。
すると、びっくりするような変化が現れはじめました。おむつかぶれで、いつも真っ赤だった赤ちゃんの肌が、みるみるうちに本来の白さを取り戻し、ツルツルになっていったのです。
肌がキレイになり、子どもたちが心地よさそうに過ごす姿を見て、現場には自然と「これは続けていきたいね」という空気が生まれていきました。
そうした中で、もうひとつ気づいたことがあります。それは、スキンケアが子どもの肌だけでなく、触れている大人の気持ちも整えてくれるということです。
「キレイになってね」
「気持ちよく過ごしてほしいな」
そう願いながら子どもの肌に触れていると、不思議とこちらの気持ちまで落ち着いていくのです。
お昼寝の時間、なかなか寝つけずにぐずっている子の足に、クリームをつけてそっとさすってあげる。すると、すーっと穏やかな眠りに入っていくことがありました。
その姿を見たとき、私は思ったのです。「スキンケアは単なる肌のお手入れではないのだな」と。
人と人とが向き合い、心を通わせる時間。だからこそ、互いの心を穏やかにしてくれるのかもしれません。
「基肌育」で育む、
子どもたちの健やかな未来。
子どもたちへのスキンケアを続ける中で、どうしても必要なものがありました。それは、ご家庭でも継続して、保湿をしていただくことです。
そのためには、保護者の方々にスキンケアや保湿がどれだけ大切か、知っていただかなければなりません。そこでまずは土曜日に希望者を募り、ナチュラルサイエンスさんと一緒に肌の状態を知る体験会のようなイベントを開催しました。
最初に手を挙げてくださったのは3家庭でした。そこから少しずつ輪が広がり、やがて多くのご家庭が関心を持ってくださるようになりました。
今では、入園当初から「この園は保湿をしっかりしてくれるから安心」と言っていただくことも増え、世の中の意識も大きく変わったと感じます。
私は今でも、令以子さんから初めて「基肌育」についてうかがったときのことを思い出します。「保湿をすることで、子どもたちの肌の状態が少しでも良くなり、毎日を穏やかに過ごせるようになるのなら——」そんな思いから、園でのスキンケアをはじめました。
続けていくうちに、「肌を守ることは、その人の健康を守ることにつながっていく」と感じるようになりました。
「私たちがお預かりしているお子さんたちが、生涯にわたって健やかに過ごしていけますように」そんな願いが、自然と心に生まれてきました。
当時は、「スキンケア=美容」というイメージが先行していましたから、今振り返ると、とても先を見据えた取り組みだったのだと思います。
私がナチュラルサイエンスさんと長くご一緒している理由も、そこにあります。令以子さんの「子どもの未来を守りたい」という想いと、ものづくりに対する誠実な姿勢。
そのどちらもが、私たちの保育の理念と、深く重なっていると感じています。
言葉を手渡し、心を通わせる。
これからの子育てへ

スキンケアは、肌を守るためのものですが、それだけではありません。人が人を想い、お互いに向き合う大切な時間でもあります。
現代は情報に溢れ、スマートフォンやタブレットの画面と向き合っている時間もずいぶん長くなりました。スマートフォンを見ながら「ちょっと待ってね」と、お子さんに声をかけるお母さんの姿も見かけますが、用事が済んだら「待っててくれてありがとう」と、ひとこと声をかけてあげてください。そのひとことが、お子さんの安心につながります。
スキンケアをするときや、おむつを替えるときも。ぜひ、その子の目を見ながら言葉を手渡してあげてほしいなと思います。
「今からおむつを替えるね」
「キレイにしようね」
「気持ちよくなったね」
言葉によって「これから何が起こるか」を伝えることで、子どもは大人を信頼し、自分の体が大切にされていることを実感します。無言のまま、作業のようにおむつを変えられるのと、対話の中でケアされるのでは、子どもの育ち方は大きく変わっていきます。
スキンケアは肌をうるおすだけでなく、親子が触れ合い、心を通わせる大切なひとときでもあります。触れ合うことで大人はやすらぎ、子どもは「愛されている」という安心感を育んでいきます。
私たちもまた、そんな時間を大切にしながら、子どもたちと向き合ってきました。職員に支えられ、子どもたちとともに、そして令以子さんにアドバイスをいただきながら、ここまで歩んできたのだと思います。

その日々の積み重ねのなかで、子どもたちが少しでも人を信頼し、穏やかに過ごせるのなら——。
そんなやさしい時間が、これからも多くのご家庭に広がっていくことを願っています。

きららっこ石神井公園保育園
元園長/相談役
冨樫 延子(とがし・のぶこ)
きららっこ石神井公園保育園(東京都練馬区)で17年にわたり、園と家庭の両方で「基肌育」に基づいたスキンケアを実施。ナチュラルサイエンスと連携しながら、子どもたちの肌に寄り添ってきました。子どもたちから「のぶこさん」と呼ばれ、慕われています。








